「にせ亡命申請者」との戦い

 戦後のドイツは、政治的な理由で亡命してくる外国人の受け入れについて、世界で最も寛容な国の一つだった。その理由は、ナチスドイツがユダヤ人や異民族を迫害したことへの反省と、多くのドイツ人が他国に亡命することで生き延びられたことへの配慮である。

 1992年に亡命申請者が急増したために、ドイツは難民法を改正して受け入れの基準を厳しくしたとはいえ、日本や米国よりもまだ寛容だ。

たとえば、11月中旬にメルケル政権は、厳密に言えば滞在資格がない亡命申請者でも、この国に8年以上滞在し、社会保障に頼らず自分で収入を得る能力と意志があり、犯罪をおかしていなければ、滞在許可を与える方針を明らかにした。ドイツ人の出生率は低下する一方で、人口が減っている。このため自活能力があり、きちんと税金と社会保険料を納める外国人ならば歓迎するという、政府の原則を反映している。

 だが一部の亡命申請者の中には、社会保障制度を食い物にする者もいる。オッフェンバッハ警察と外国人局は、1990年代に71人のヨルダン人が「パレスチナからの政治難民だ」と偽って、市当局から、340万ユーロ(5億1000万円)の生活保護費をだましとっていたと断定した。

ある40歳のヨルダン人女性は、7人の子どもを連れて亡命を申請したが、市役所から受け取った生活保護費は、20万8000ユーロ(3120万円)にのぼる。また若いヨルダン人男性は、53万ユーロ(7950万円)もの医療費を、オッフェンバッハ市に肩代わりさせた。これらのヨルダン人は全て国外退去処分を受けたか、自発的にドイツを去っている。真面目に働いて税金を納めている市民にとっては、言語道断の犯罪行為だ。

警察と外国人局は、ヨルダンやパレスチナでも調査を行うことによって、詐欺を突き止めることができたわけだが、通常はこれだけの時間と費用をかけて、亡命申請の理由を調べることは難しい。したがって、オッフェンバッハで摘発された事件は氷山の一角であり、ドイツ全体の被害額は、はるかに多いに違いない。

 もちろん責任の大部分は、ドイツの制度を悪用する犯人にあるが、外国人局もこれまで以上に審査を厳密に行うべきだ。たとえばあるヨルダン人女性は、数カ月おきに「子どもが生まれた」と偽って、12人分の養育費を市から騙し取っていたが、これは過去の書類をチェックすれば詐欺と見抜けるケースだ。また、詐欺によって生活保護費を受け取った外国人への罰則を強化して、将来似たような犯罪を防止する必要もある。

 このような事件が起こると、本当に政治的な理由でドイツに亡命してくる外国人まで、疑惑の目で見られる恐れがある。また極右勢力が、外国人への反感を煽るための口実にもなりかねない。予算不足のおり大変だが、警察と外国人政策担当者には一段と奮起して欲しい。

筆者ホームページ http://www.tkumagai.de

週刊ドイツ・ニュースダイジェスト 2006年11月24日