「頭蓋骨スキャンダル」の憂鬱

 

10月末に、大衆紙「ビルト」紙がすっぱ抜いた写真は、ドイツ人に強いショックを与えた。アフガニスタンでのISAF(国際安定化部隊)に派遣されているドイツ連邦軍の兵士が、頭蓋骨を持って記念写真を撮影していたことがわかったのである。ジープの前部の鉄のポールに頭蓋骨を突き刺したり、頭蓋骨にピストルを突きつけたりしている兵士。中には、自分の局部を露出して、頭蓋骨とともに写真に納まっている兵士もいる。彼らはパロデイのつもりでいるのかもしれないが、死んだ人の頭部をもてあそぶとは、言語道断である。

メルケル首相は「死者に対する冒涜(ぼうとく)は許せない」と激怒し、連邦軍は写真に映っている兵士たちを除隊処分にした。

現在アフガニスタンなど中央アジアには、約2900人のドイツ将兵が駐留している。アフガニスタンでの治安情勢は年々悪化し、兵士たちは極度の緊張を強いられている。これらの写真は、長期間にわたり家族や恋人と切り離されて、娯楽も少ない辺境で、過酷な任務を遂行している内に、通常の道徳心を失ってしまう者が現れたことを示している。ドイツ連邦軍は、シビリアンコントロール(文民統制)に基づく、「社会の中の軍隊」であることをめざしてきた。それだけに、軍隊は社会の縮図でもある。人骨をもてあそぶ兵士たちの姿は、社会のモラルの低下をも象徴しているのかもしれない。

ドイツ政府は、イラクのアル・グライブ収容所などで、米軍兵士がイスラム教徒に加えた拷問や精神的侮辱を、強く批判してきた。こうした行為は、人権を侵害し、国際法に違反するだけでない。イスラム教徒の間で「イラク戦争はテロリズムに対する戦争ではなく、キリスト教徒がイスラム教徒を征服しようとする、新しい十字軍遠征だ」という感情が広まり、アル・カイダなどの過激組織への支持者を増やす原因となる。今回の「されこうべ問題」も、イスラム過激派によって、「ドイツが人権侵害に加担する証拠」という宣伝材料として使われる恐れがある。ドイツを標的とするテロの危険が、高まる恐れもある。

第二次世界大戦中にも、ドイツ軍兵士たちの中には、処刑されたパルチザンや、虐殺された市民の遺体の前で、記念写真を撮り、その写真を持ち歩く者がいた。私は今回明らかになった、されこうべの写真を見て、戦争中のそうしたエピソードを思い出してしまった。善良な市民も前線に送り込まれると、道徳的なバランス感覚を失い、神経が異常になるというのは、いつの時代にも同じことなのかもしれない。

 

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2006年11月10日 週刊ニュースダイジェスト