ドイツ人とトルコ人
「トルコ人がドイツ社会に溶け込むことは良い。しかしトルコ人としてのアイデンティティを捨てて、同化するよう要求することは、人道に対する犯罪だ」。
2月10日にケルンで、トルコのエルドガン首相が約1万人のトルコ人たちの前で行った演説は、ドイツ社会に大きな波紋を投げかけた。
彼がドイツに住む同胞に、外国でもトルコ人としての誇りと伝統を守るように呼びかけたのは、理解できる。
しかし、「同化を求めることは犯罪だ」という言葉は、刺激的である。
さらにエルドガン氏の演説の中で、ドイツ人を刺激したのは、「ドイツにトルコ人向けの学校と大学を作るべきだ」という言葉である。
現在でも、トルコ人コミュニティーについては、「自分たちだけで一種のゲットーを作っており、閉鎖的だ」という批判が一部のドイツ人から出ている。
ドイツにトルコ語で授業が行われる学校が開かれたら、トルコ人の間ではドイツ語を学ぼうという意欲が、さらに減るだろう。
メルケル首相は「エルドガン氏と私の間には、“Integration(融和)”について見解の違いがある。私はドイツに住むトルコ人市民にとっても首相である」と述べて、エルドガン氏の発言を批判した。
ドイツ側は、トルコ人が社会に溶け込むことは要求しても、固有のアイデンティティを捨てて同化することは求めていない。
ドイツ人教師の間には、「保守的なトルコ人の両親は、娘が男子生徒といっしょに水泳や体育の授業、遠足に参加することを禁じることがある」という声がある。
ドイツ社会で重視されている男女同権の原則に反する行為だが、イスラムの教えに照らせば、正しい態度だ。
トルコ人に言わせれば、「ドイツ人は我々の宗教の自由を尊重するべきだ」ということになる。
「トルコ人よ、伝統を守れ」と訴えるエルドガン首相の言葉は、こうした保守的なトルコ人に追い風となる。
だが、彼らをドイツ社会に溶け込ませようとしているドイツ政府にとっては、逆風である。
エルドガン氏がこうした発言を行った裏には、選挙対策という側面もある。
先月から、在外トルコ人はトルコに帰らなくても、不在者投票ができるようになった。
ドイツに住む170万人のトルコ人有権者は、彼にとって重要な票田なのである。
エルドガン氏はドイツに住むトルコ人有権者の票を集めるために、保守的な同胞の耳に快く響く演説を行ったのである。
つまりトルコの国内政治が、ドイツに持ち込まれるようになったのだ。
社会保障制度が充実していない米国では、外国人の生活の安定は、ドイツほど保障されていない。
それでも大半の移民は「ここは自分の国だ」と感じ、米国人としての強いアイデンティティを持つようになり、英語を必死に習得しようとする。
ドイツに住む大半のトルコ移民の間では、そのような傾向は見られない。
むしろドイツに対して違和感や疎外感を抱く人が多い。
宗教の違いが、大きな溝になっている。
ドイツ人とトルコ人の、融和への道程は険しい。
週刊ニュースダイジェスト 2008年2月22日