2003年2月8日  週刊 ドイツニュースダイジェスト掲載

対イラク戦争・欧州分裂の危機

EU(欧州連合)とNATO(北大西洋条約機構)は、米国の対イラク戦争をめぐる議論で、創設以来最大の危機に直面している。

1月末に、英国、スペイン、イタリア、ポーランド、チェコなど欧州の8カ国が、米国の対イラク戦争を支持する共同声明を発表したことは、去年の夏以来、ブッシュ政権に反旗をひるがえしてきたドイツの立場を、より苦しいものにした。英国政府は、伝統的に米国との関係が密接であることを利用し、今回の危機を通じて、米国にとって欧州の立場を代弁し、欧州に対して米国の意見を伝える仲介者の地位を確保することを狙っている。

特に英国は欧州で最も多い戦闘部隊を湾岸地域に派遣し、積極的な軍事貢献を行う意志を示していることから、米国に対して影響力を行使する立場にある。また英国やスペインは、ともに国内でテロ組織との戦いで苦い経験を持つだけに、米国の、「サダム・フセインが、生物兵器や化学兵器を将来テロリストに提供することへの懸念」に理解を示しているのだ。

イラクに対する戦争は、9月11日の同時多発テロ、そして米国の国際テロリズムに対する戦争の延長線上にあるという、ブッシュ大統領の主張を、ブレアーやアズナーは受け入れたのだ。チェコのハヴェル大統領が米国を支持しているのも、興味深い。ナチスとソ連という二つの全体主義政権に支配されてきた東欧・中欧では、独裁と戦うには最終手段としての武力行使は止むを得ないという意見が、ドイツよりも強いのである。結局、ナチスの強制収容所から人々を解放したのは、平和運動ではなく、米軍とソ連軍の兵士たちであった。

さて現在ドイツとともに対イラク戦争に反対しているフランスが、国連安保理で武力行使をめぐって採決が行われる時に、国際社会で孤立することを避けるために、米国を支持する立場に寝返る可能性もある。その時、ドイツが半世紀をかけて築いてきた対米関係は、(今もすでに深く傷ついているが)決定的な打撃を受け、ドイツはもはや米国からパートナーとしては認められなくなるだろう。戦争反対の姿勢によって選挙に勝ったシュレーダーは、もはや後戻りはできない。

ベルリンの壁崩壊後、主権を回復したドイツが「普通の国」へ向けて歩み出す中で、ここまで大胆にアメリカの影から飛び出そうと試みるとは、思わなかった。EUが提唱する「共通の外交・安全保障政策」など、画に描いた餅にすぎなくなった今、同盟はどこへ漂流して行くのだろうか。