トルコ紀行(11)EU加盟は実現するか?

イスタンブールの町を歩いている時、私の頭の中には「この国は、いつか欧州連合(EU)に加盟するのだろうか?」という問いが常に浮かんでいた。

トルコは2005年に正式に
EU加盟の申請を出しており、死刑や拷問の廃止など加盟のための条件を満たすために努力を重ねている。だがEU加盟国の間では、トルコを受け入れたくないという意見が根強い。

2006年に行われた世論調査によると、回答者の48%がトルコの
EU加盟に反対し、賛成派(39%)を上回っている。オーストリアでは国民の81%が反対している他、ドイツでも69%が拒否の姿勢だ。

フランスのサルコジ大統領も懐疑的で一時は「トルコは正式な加盟国ではなく、特別なパートナーにとどまるべきだ」と主張していた。

EUとの交渉は今も続いているが、この国が近い将来EUの一員となる可能性は低い。

EU市民の間では、トルコの加盟を拒否する理由として「トルコはクルド人などの少数派を迫害するなど、人権を十分に尊重していない」と主張する人が最も多い。

確かにクルド人は今も差別と迫害にさらされており、トルコ軍が時おり東部地域でクルド人の武装勢力と激しい戦闘を繰り広げている。人権尊重は、
EUが最も重視する価値観の一つである。

また「トルコとEU諸国の間の、宗教的、文化的な違いが大きすぎる」として加盟を拒否するヨーロッパ人も多い。

トルコの7200万人の住民の内、実に99%がイスラム教徒である。現在
EUに入っている国の中で、これほどイスラム教徒の比率が高い国はない。

EU加盟国の間では今もキリスト教の価値観が社会の重要な尺度となっている。このため、トルコが加盟した場合、域内で深刻な価値観の対立が起こるのではないかという懸念を抱くヨーロッパ人が多いのだ。

また中進国であるトルコがEUに入った場合、EUはインフラの整備などのために巨額の援助を迫られる。イスタンブール地区の国民一人当たりの所得は、東方拡大前のEU15カ国の平均所得の40%に達している。しかしトルコ東部の平均所得は、EU15カ国のわずか7%にすぎない。EUは農業援助などで多額の出費を求められるだろう。

イスタンブールの混沌とした町を歩いていると、確かに非ヨーロッパ的な物を強く感じる。それでもトルコがEU加盟をめざして、ゆっくりと人権問題などで改善を見せていることは喜ばしい。EUは完全に扉を閉ざさずに、欧州とイスラム圏のはざまにあるこのユニークな国との対話を深めて欲しいものだ。

(文と絵・ミュンヘン在住 熊谷 徹) 

保険毎日新聞