2003年6月8日

ニュンフェンブルグの幻影

私は土・日の夕方には家から近くのニュンフェンブルグ宮殿まで往復1時間にわたり、ジョギングをすることにしている。連日30度の蒸し暑い日が続いているミュンヘンだが、夕刻ともなれば雷鳴が響き、空がかき曇る。夕立が降り出すと、地表の温度が下がって、走りやすくなる。

今日もいつものように宮殿の前の駐車場にさしかかったのだが、白のストレッチ・リムジンが3台も停まっている。ストレッチは時々見るが、3台というのは多い。また別の白いロールスロイスには、花束がのせてあるので、結婚式のようだ。この宮殿をバックに結婚式のリセプションをする人は少なくない。それにしても、豪華な車ばかりだ。戦車のように大きなベンツ、BMW,ポルシェの四輪駆動車、黄色いフェラーリなどが、所狭しと並んでいる。

やがて宮殿の方から、300人ほどの外国人の行列が近づいてきた。掲げた国旗から、ルーマニア人の華燭の典ということがわかる。バルカン半島でよく聞かれるクラリネットとトランペットの音楽を奏でながら、民族衣装に身を固めたルーマニア人たちが、楽しそうに歩いてくる。ある者は花束を持ち、別の者は太いロウソクを掲げている。

公園を散歩していたドイツ人たちも、豪華な行列を見て足を止め、拍手を送っている。あるドイツ人は「まるで映画の1シーンのようですね」と感想をもらした。たしかに、私もミュンヘンではなくルーマニアの村の一角で、披露宴の行列を見ているかのような錯覚に襲われた。雨足が強くなってきて、私はミュンヘンの現実に引き戻された。